不協和音 Ⅱ

ー「ずっと僕のそばにいてね?ぐくが好きなのは僕だけでしょ?そうだよね?」

ジミンはグクの事が好きだからグクがジミンを好きになって居なくなっちゃわないか心配なの。いつしか大泣きしながら俺にそう言った。もう関わらないから安心して。ずっとテヒョナのそばにいる。「テヒョナがなによりも1番大事だよ」そう約束したはずだった。

あの言葉に含まれた君の不安と悲しみに気付けなかった俺が悪いんだ。

 

 

ー 大学構内でジミンと話している君を見た。

 

 

 

 

 

 

その日ジョングクは現れなかった。話を聞くに熱で寝込んでいるらしい。週に一度、唯一僕が彼と同じ講義を受けれる大事な日なのに。いつも楽しませてくれる彼の居ない2時間は長かった。つまらない講義内容も彼が居ればそれが自分にとって1番楽しみな時間になる。たった2時間であろうと僕にとっては彼と過ごせる貴重な時間だったのだ。ある日は好きな歌手の話で盛り上がり、ある日は好きな食べ物の話で盛り上がった。そのまま帰り道に2人でトッポッキを食べに行ったこともあった。自分がどんな立場なのかも忘れ、ただただ幸せな毎日に酔いしれていた。

 

「届け物の書類あるからお願いだから持ってってくれ。」

 

パクジミン。そう呼ばれて振り返れば先程まで講義を受けていたあの教授が立っていた。そしてそうお願い事をしてきたのだ。確か仲良かったよな?なんて言葉を付けて。

 

 

 

 

 

 

 

"パクジミン" 聞き覚えのある名前に思わず辺りを見回した。妖艶な一重まぶた、ぽってりとした唇、自然な桃色をした頬。胸の底から何か込み上げてくるものを感じた。彼奴はジョングクの事が好きで、そして僕の親友だった。往生際が悪い。今まで何度だってタイミングを見計らっては諦めさせるようにアクションを起こしてきた。彼奴が魅力的である事は自分が良く知っている。だからこそこれ以上グクには近付いて欲しくないのだ。

 

届け物、この時間、この講義室前、仲が良い。一見無関係に見えるこの4つの単語は僕の頭の中で一瞬にして繋がった。お互いの講義スケジュールは全て把握している。どの時間にどの校舎にいてどんな講義を受けているかなんてすぐ分かるものだ。お互いこの後はもう講義がないから、一緒に帰るため毎週この教室に足を運んでいた。その度にグクとジミンが笑い合いながら講義室から出てくるのを見ていた。そして僕は何も知らないフリをして彼の手を握り締めるのだった。

 

仲が良いと言われちゃうんだね。早く会いたいと思ってたのは僕だけだったのかな。走って走って走って。1番遠い校舎からここまで来るのいっつも大変なんだよ?そんなにパクジミンが大事?恋人は誰?僕の方が大事に決まってるでしょ。

 

ー ああ、邪魔者はさっさと排除しなければならない。

 

僕の足は行き先を変えた。本当はグクの好きなバナナキックとかポカリとかプリンとかたくさん買ってから行こうと思ってたけど。気が変わった。今すぐグクでいっぱいにして欲しい。この溢れて止まらない不安に愛で蓋をして欲しい。そしてその優しい声で何度でも僕を1番だと言って。

 

合鍵でドアを開ければいつも出迎えてくれるはずの恋人が今日はいない。靴を脱ぎ捨ててドタバタと寝室めがけて走った。今日はなんだか走ってばかりだ。まだ熱があるかもしれないとか倦怠感が残ってるかもしれないとか知ったこっちゃない。急いで昨日ぶりの唇にかぶりついた。不安を掻き消すように必死に彼の唇を舐めて吸って噛み付いて。ああ、溶けてひとつになりたい。

 

「抱いて」

 

 

 

 

 

 

大学から帰ってきて早々バックも置かずに激しいキスしてきた張本人は挙げ句の果てに抱いてなんて言い出した。思えば最近少し荒々しくなったというか、前よりも情緒不安定になった気がする。なにか不安にさせるような事をしただろうか?思い当たる節はない。「何かあった?」「話聞くから」そんな俺の言葉は無視で「だから今すぐ抱いてってば!!」と声を荒げた。それでもこんなに可愛い恋人に抱いてくれと言われてしまえば、熱があることなんて頭からすっぽり抜けてしまい、話は後ですればいいからまず愛し合おうという気になってしまう。それが男というものなのだ。

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インターホンはもう4回も鳴らした。困ったな、ジョングクが中にいるはずなのだが。もしかして熱で倒れてたりしたら…。そんな嫌な想像が頭によぎって無意識にドアを開けてしまった。

 

ガチャ。音を立てて小綺麗な玄関が僕を出迎えた。なんだ開いているじゃないか。不用心なヤツめ。なんでこんな靴が散乱してるんだ?そんなところも彼らしくて思わず頬が緩む。靴を脱いで2足ぶん綺麗に揃えた後「お邪魔しま〜す」「ジョングガ〜?」大きめの声を出して長い廊下を歩く。奥の方から苦しそうな声が聞こえてきた。やはり予想通りじゃないか。ドッキリさせようとドキドキしながら足音を立てないようにそっと廊下を歩くが、近付けば近付くほどどうやらこの声はいつも僕の心を溶かすあの声ではない事に気付いた、が、少し遅かったみたいだ。ドアの隙間から見えるその光景に僕の頭は鈍器で殴られたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

セックスまで持ち込めば僕の勝ち。ベッドが軋む音と僕の快感に喜ぶ声に混じって微かにインターホンの音が聞こえた。僕の口は弧を描いた。きもちいいきもちいいといつもよりオーバーに喘いでたまにわざとグクのこと締め付けたり。「なに今日、すげぇ可愛い」ってまんまと引っかかってガンガン突き上げてくれるところも大好き。ちゅうしてってお願いしなくてもちゅうしてくれる。幸せと快感で真っ白になって意識が飛んじゃいそうなのを必死に耐えた。「ここでしょ?」って熟知してる僕の前立腺を何度もガッツリ攻め上げてくるから痙攣までしちゃって。ああ、幸せ、ジミナに見られてる、嬉しいなんて感情が更に僕を快感の波へ連れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで僕はこんなにも不幸なんだろう。見たくないのにその場から動けないこのチンケな脚では僕にこの後どんな地獄が待っていようと逃げられない。結局最後までズルズルと見てしまった。ジョングクがテヒョンの弱いとこばかり狙って突き上げてるのは見てればわかる。前立腺をしっかり把握してるその関係性の深さにも、何度も何度も絶頂へ連れて行くドSさにもこれでもかってほど胸を締め付けられる。テヒョンが失神しちゃった後も、ちゃんと後処理してあげて最後に頭撫でてあげてて。ああ、テヒョンには敵わないんだ…って。そしてまた失恋をした僕は帰り道声をあげて泣いた。